金管楽器用マウスプロテクター自作

私はトランペットを吹くのですが、歯並びが悪く昔からハイトーンを吹いたり少し長めに練習をすると唇が切れて出血するのが悩みでした。中学生の時はユーフォ吹きだったのですが、大きめのマウスピースが八重歯に当たってセンター位置とアパチュアがずれ、その癖を引きずって高校に入ってトランペットに転向してからもかなり長期間右にずれた形で吹いていました。



奏者が歯を削って理想に近い形にするというのはよく聞く話で、身近な奏者の方も何名かそういうケースがあるのですが、削ると歯そのものがなくなってしまう場合も多いかと思います。
矯正はというとその間お休みするか血まみれで吹くかの二択になるのが厳しい(内側で引っ張る方法はタンギングで舌を切りそうだし、吹きながら続けられる床矯正という手段もあるようですが、大人になると大幅に動かすことが難しいとか)。


残る手段は影響のある部分を埋める、マウスピース(マウスプロテクター・リップガード・マウスガード、正式名称不明)を作ることなのですが、手近に対応してくれそうな医院がなかったので(後に実は身近に作っておられる方がいらしたのですが)、自分で作ってみました。

条件は
・比較的楽に加工できること
・口内に入れてもそれなりに大丈夫な素材であること
で探してみた結果、「自由樹脂」(http://www.yumegazai.com/owners/yumegazai/event/resin/)がよさそうなので東急ハンズ(素材コーナー)で買ってきました。いろいろな色があるのですが、色ものは笑ったときなどに驚かれそうなので無難にナチュラル(半透明)を選択。
60℃以上に温めると柔らかくなり、常温ではプラスチックのように固まる性質の素材です。


食器素材として認可されているらしいこと、体温以上にはならないこと、飲食して飲み込むわけではないことを考えると比較的害は少ないだろうと判断しましたが、注意書きには「口に入れないようにしてください」とありますので気になる方にはおすすめしません。


ちなみに同じメーカーから出ている「おゆまる」は仕上がりが若干やわらかく、今回の目的には合わないようです。


作り方は至って簡単で、
1. 60度以上の湯に溶かす
鍋に入れてでもポットの湯でもよいが、トライ&エラーを繰り返すことが予想されるので私は手鍋に湯を沸かして、冷めたら火にかけてを繰り返しました。
ポイントは次に歯型をとるので熱しすぎない点と、意外と少量で用が足りるという点。


2. 溶けた樹脂を歯に押し当ててマウスピースを作る
融解温度ギリギリだと箸ですくい上げた後は指で触れるくらいの温度なので、すぐに歯に押し当てて型作る。鏡を鍋の近くに置いておくとやりやすいです。失敗したらまた溶かせるのであまり気にせずやってみるのがよいかと。
丸めた樹脂を歯に押し当て、指で広げる方法が一番うまくいきました。歯にかぶせるような形で作ると大抵はずれません。
保護したい部分は厚めに、その他は薄めにするのがコツのようです。
歯ぐきに近いところは薄くないと唇の振動が辛くなりますし、あと忘れがちな歯の裏側は分厚くなるとタンギングに影響が出ます。


3. はずす
1分くらいで固まってしまいますが、急ぐ場合は水を口に含めば即硬化します。目安としては色が透明から白くなれば変形しません。



というわけで作ってみたのが写真。全体をフォローする形と、重なっていて一番問題の下歯部分のみを埋めるもの2種、唇を巻き込んだ時に刺さる上の犬歯をカバーするもの1種。
音は部分を埋めるタイプが鳴りやすく、長時間やられないのは全体フォロー型のようです。が、付け替えると楽器のマウスピース交換よりはるかに影響が大きいので演奏中は無理ですね。その日の始めならまぁ、対応できる感じ。


音色は振動体である唇と共鳴する口蓋と息(エアフロー)の影響が大きいはずで、基本的には変わりません。なのでこれで劇的に音が抜ける!なんてことはないですが、痛みが消えるので勢いよく吹けるようになった結果、鳴りと音量問題はよい方向に向かったと思います。


歯の重なりを埋めるので、唇に対して前傾になることには違いはなく、朝から晩までぶっ通し練習などだと若干内出血はしますが、流血なしに吹ける快適さは素晴らしいです。専門医に作ってもらうものの方が堅牢性も含めよいだろうとは思いますが、とりあえずのものとしては総制作費は300円くらいですし、吹いてみてまめに調整、作り直しができるのが長所かと。最近は材料もオンラインでも手に入るので、高校生の時にできていたら長時間練習もずいぶん楽だっただろうなぁと思うことしかりです。

スポーツ選手も噛み合わせが影響するそうで、調べた限り楽器用よりは対応してくれる医院が多そうですが、やっつけのプロテクターなら同じ方法で作れそうです。